神が主に細部に宿った映画。
アイドルマスター劇場版、「輝きの向こう側へ!」の感想を。
私は「0話」の小冊子をもらった組です。満員でしたよー。
私は、本当に見て良かったと思います。
どのアイドルも輝いていたし。
作中の春香さんに力づけられたし。
非の打ち所のない……とは言えないのかも知れませんが、しかし、「アイドルマスター劇場版」として、実に良い映画だったと思うのです。
以下、かなりうろ覚えな部分もあることをお断りしておきます。
(台詞回しとか本当に心揺さぶるものがあったのですけど、到底覚えてられないので……。
DVDとか出たら何度も見直す映画だと思います、これは)
まず、今回の主人公の話から。
「アイドル(英雄)」春香の物語。
個人的には、「団結」の、
「リーダーなんて必要ない」
があまりに印象的なので、春香をリーダーに、という話には驚きました。
リーダー不在って、765プロの「ゆるさ」の象徴のようにも思っていましたし。
で、可奈の問題を抱えて、リーダーたらんとして苦闘する春香さん。
アニマスもそうでしたけど、ほんとに、スタッフは春香さんに重いものを背負わせるなあ……という印象でした。
前半、可奈にとっての「憧れ」が自分であることを知り、かつて「歌の上手なお姉さん」に憧れた自分が、今度は憧れられる側になっていたと知る……というシーン。
それを765プロの成長の描写の一環として描きつつ、春香と可奈の関係を築き、それが後で春香の心の重荷にもなってくる、という展開がすごくうまいな、と。
そして、「リーダーらしくならなきゃ」「でもリーダーって何だろう」と思い悩む春香に対して、
「プロデューサーは『春香を』リーダーに選んだんだから、春香は春香らしくあればいいのでは?」
と助言する千早や伊織。
可奈を見捨てられない、と悩む春香さんを「甘すぎる」と批判する人もいます。
スケジュール調整の大変さが前半で強調され、日程も迫る中で、レッスンしないで「可奈を迎えに行く」なんて、ビジネス的には正しくないのかも知れません。
でも、そんなのアニマスの
「みんなで一緒に!」
からわかってたことで。
そんな春香さんだと知りつつリーダーに選ぶ、それが765プロであり、「アイドルマスター」の世界なのだと思います。
逆に、思い悩む春香さんを「春香らしくない」と言う人もいます。
千早の部屋の前で「ほっとけないよ!」と叫んだ春香が、なぜ可奈に対しては決断を下すのが遅いのか、と。
でも、春香にとっては、千早は同じ765プロのメンバーで、長いこと一緒に過ごしてきた相手ですけれど、可奈はあくまで「最近知り合った、他所のダンススクールの子」なわけで。
それを、自宅まで迎えに行く、というのは、「立ち入りすぎではないか」という葛藤があって当然だと思うのです。
見ている側にとっては、箱○版だろうがDSだろうがグリマスだろうが「うちのアイドル」という感覚があるのはわかるし、ニコマスでも、876プロの子がほいほい765プロに遊びに来たりしてますけど。
でも、実際には、アイマス世界の所属事務所間の壁って、そんなに低くないのだと思うのですよ。
それに、これは想像ですけど、春香の中には、
「自分が可奈を贔屓しているのではないか?」
という引け目があったのではないかな、と。
自分が、可奈にとって「憧れのアイドル」だと聞いてしまったことで、春香さんにとっても、可奈はある意味で他の子と違う、特別な後輩になってしまったわけで。
志保に、
「なぜ、可奈のためにそこまでするのか?」
と問われて、自分が可奈を贔屓しているのではない……と自ら断言できなかったし、だからこそ悩んでしまったのではないでしょうか。
そんな春香さんが、765プロの仲間と話す中で、
「贔屓ではなく、自分はみんなを救いたいんだ」
と決意するわけです。
アイドルとして、業界人としては甘いのかも知れませんが、思えば、
「大の虫を生かすため小の虫を殺すか、それとも小の虫を生かすため大の虫を死なせるか」
という「現実的な」決断を迫られて、
「どちらも選ばない。どちらも救ってみせる」
と、「現実そのものを変える」道を選ぶのは、英雄譚としては王道と言えます。
春香さんは、己の人間的な悩みを、仲間達の助言を得て乗り越えることで、いわば英雄になった、のではないでしょうか。
あと、矛盾するようですが、プロデューサーたちの存在を忘れてはいけないと思います。
春香をリーダーに選んだのは赤羽根Pです。
彼と律子は、春香達の苦闘を一歩離れたところからずっと見守っているわけです。
本当に助けが必要な時には介入することもできたでしょうし、ダンススクールの子たちを一旦765プロで預かる、というのもいわばその例です。
可奈を迎えに行く話だって、プロデューサーたちが関知してないとは思えないですし。
アイドル達の成長を思えばこそ、春香をリーダーに指名したのだし、彼女らが迷いながら決断するのを見守っていたのではないでしょうか。
ライブ当日、プロデューサーが春香に
「リーダーとして最後の仕事だな」
と声をかけるのは、見た時はだいぶ拍子抜けしたんですけどね。
「今までこれだけ春香さんが悩んできた“リーダー”って、本当にそんな一時のことだったのか……」
という。
でも、そういう、いわば「教育的」な意味を持ったリーダーだとすると、短期間なのはむしろ納得です。
これから765プロでは、仕事のたびに「今回のリーダー」が決まるのかも知れないですね。
本人の能力と責務の重大さに合わせて、その都度プロデューサーが決める感じで。
「主人公」である春香さんについてはこれくらいにして、あとはお話全体の感想を。
「続編」としての前半。
アニマスがあまりにも美しく完結してしまっただけに、
「続編なんて大丈夫なのか……?」
という不安がありました。
二時間の壮大な蛇足になってしまうのでは、と。
しかし、蓋を開けてみれば、前半、成長した765プロの様子を描き、アニマスの「後日談」をよく見せてくれたなあ、と。
冒頭、アニマスの終盤でちらっと言及だけされた
「生っすか!?レボリューション」
のシーンに始まり、765プロの「その後」の活躍の様子。
そして、合宿中、「先輩」として、自分の経験を語る765プロの面々の姿は、アニマスでそれを一緒に体験したファンには感慨深いものが。
……まあ、そういった成長描写のせいもあって、特に前半、グリマス組が765組の引き立て役になってしまってないか、大丈夫か、などと心配も……。
とはいえ、私はグリマスやってないので、そちらのプロデューサーの視点だと違うのかも知れません。
(ファン視点だと、周囲はみんな「引き立て役」に見えるものですから!)
それはさておき。
映画のパンフレットを見ると、本作は最初はOVAの企画で、内容的には、765プロの夏の合宿……つまりこの映画の前半部分を扱う予定だった、と。
キャラ描写のために贅沢に時間を使うなあ、と見ていて思ったのですが、そういうことだったのですね。
特別編「765プロという物語」もたいへん楽しんだので、そういうノリで2時間765プロの日常が続いても私は別に大満足だったのですけども……。
そのOVA企画の名残とでも言うべきか、後輩がへこたれるほど過酷なレッスンをしつつ、川で魚を捕まえるやら水鉄砲で撃ち合うやらのキャッキャウフフも欠かさない、というのはやはり見ていて楽しいです。
……「シャイニーフェスタ」に対して、
「舞台演出とか真剣に考えて取り組んだジュピターに、遊んでばっかりの765組が大勝利する話」
という評を見たことがあるんですが、それに対する
「バッカお前、765アイドルは過酷なレッスンをこなしながらその合間に海で遊んで夜は枕投げするくらいのバイタリティがあるに決まってんだろ?」
という公式からの返答……と捉えるのはさすがに考えすぎかも知れませんね。
どこかで見た、でも新しい後半。
さて後半。
正直に言うと、見ていた「また?」と思わぬでもなかったのです。
メンタルの弱い子が、大事なライブを控えてレッスンに来なくなり、他のみんなが心配する、という話はアニマスでもやったじゃん、という。
真っ先に頭に浮かんだのは美希の話だし、千早もひきこもったし、そういえば春香もお休みしたじゃないですか。
特に、その前に、
「練習に付いてこられるメンバーとそうでないメンバーに分かれてしまい、振り付けのレベルを落とすかどうか判断を迫られる」
……という、どう考えてもアニマスで見た場面があっただけに「また?」という印象が強く。
(今回は「振り付けのレベルを落とそう」という結論に一旦なるのが違いといえば違いなんですけど、むしろ「細部を変えましたよー」という意図が見え見えというか……)
しかし、アニマスでも複数回似たような問題に直面しつつ、それらがそれぞれに新鮮だったように、今回もまた、それを乗り越える過程に違いがあったと思います。
「リーダー」というポジションを振られた春香が、それにどう対処していくのか。
それを、他のメンバーがどう支えていくのか。
今回、春香さんは本当にたくさんの名台詞がありました。
(見直さなきゃいけないな、と思う理由の大部分はそこです)
とりわけ、可奈と春香さんが電話をするシーンの空気とか、見ていて息詰まるものが。
「アイドルって、そんなに簡単に諦められるものじゃないと思う」
と繰り返す春香が、終盤に至って
「私は、そう思いたいから!」
と、自身の「アイドル」への思いを吐露する台詞とか、実に痺れました。
「ああ、“アイドルマスター”世界の“アイドル”って、ただの芸能人ではないんだ」
と感じさせられました(そう考えると、<能力者(アイドル)>とかのネタもある意味適正なのかも知れず)。
こうして考えると、本作って、
「どんなお話?」
と問われてあらすじだけ説明すると、実はたいしたことのない映画なのかも知れません。
OVA企画から練り直されたという前半も、時間を贅沢に使っている、と言えば聞こえはいいけど、要するにお話は進まないまま日常生活の描写で延々と時間が過ぎるという、悪く言えば「エロゲ文法」。(そこが大好きなんですけど!)
そして後半も、前にも起きたようなトラブルが再び起きる話……。
しかし、それらをどう描くか、という点において、本作は比類ないクオリティを発揮し、結果として名作になっていると思います。
戦略的に微妙な部分を、戦術的勝利によって覆した希有な例、というか。
まあ……気になる点もあるにはあったのですけどね?
例えば……
1:作画
いわゆる作画厨ではないつもりですが、遠景になった時にアイドルの絵が適当になるシーンが、特に序盤気になりました。
まあ、アニマスでも時々あったよなー、くらいのものですが。
2:ライブシーン
CGについては恥ずかしながらよくわからないのですが、なんか、観客席があまりに広大で、シーン全体がスカスカというか、寂しい感じに思えてしまいました。
まあ、そもそも、冒頭
「アリーナはとても広い。だからバックダンサーが必要だ」
で話が始まり、終盤では
「観客席はあまりにも広い。だから、個人プレーではない、みんなで協力するステージが必要だ」
と志保が納得する話なので、「広さ」の表現は必要だったのだろうと思うのですが……。
でも、せっかくだからアイドルを大きく見たいよね、と思ったりも。
3:プロデューサーの話
あのハリウッド話って、本当に必要だったんでしょうか……。
アイドル達の
「プロデューサーが安心してハリウッドに行けるように」
という思いを高めるため、なんでしょうけれど、いや、別にハリウッド行きがなくたってみんな一生懸命やりますよね?
それに、どのくらいの期間不在になるか、という、一番重要な点が明らかに意図的にぼかされたままなので、見る側としては感情移入に困りました。
ラストであっさり帰ってきてるし。
(でもあれ、どれくらい未来なんでしょう……。やよいがやたら背が伸びてるように見えたのが気になったんですが……)
4:大捜査線
可奈を探して雨の中手分けして走り回るシーンは、なんか唐突に感じてびっくりしました。
可奈って、まさかあの立派なおうちに14歳で一人暮らし……ってことはないですよね?
じゃあ、自宅にはご両親がいるはずだし、自宅にいなければ
「帰ってくるまで待たせてください」
とかなるのが普通なんじゃないでしょうか……?
逆に、しばらく前から家出していてご両親もどこにいるのかわからず心配している、的な状況だったら、もうあのメンバーだけで探す状況じゃないような気がしますし……。
緊迫感の演出なんだろうと思うんですが、一体どういう状況なのか、説明が欲しいなあ、と思いました。
5:千早父
お母さんを招待するのはいいと思うけど、お父さんは……?
でもそれは、千早の今後の課題として意図的に残された部分なのかも知れませんね。
……可奈が太ってしまったことについて「なんだそりゃー」って言ってる人もいますけど、私はわかる気がしました。
別に、太ったことがそもそもの原因ではなくて、
失敗を気に病んで休む → ストレスで食べ過ぎる → 太る → 節制できないダメな自分に嫌悪感を抱く → ストレス(以下ループ)
……という繰り返しがあったわけですよね。
自分がダメ人間だからかも知れませんが、でも、そういう「ダメだとわかってるのに辞められないダメな自分」に嫌悪を抱いた経験って、誰しもあるんじゃないかな、と思うのですよ。
……むしろ、最後のライブシーンであっさり痩せてた方が驚愕でしたよ。
無理なダイエットは体を壊しますよ?
(ライブまでどれくらい期間があったのかはこれまたぼかされてた気がしますけど……)
まあ、重箱の隅つつきはこれくらいにして、あとは、ファンサービス的な点でうれしかったこと。
ニコマス逆輸入的な。
まず冒頭、
「765プロ劇場版」
というテロップの後になんだか春香と千早の学園生活的なシーンが始まって、
「あれ? あれっ?」
と思わせておいて、実はそれは劇中劇「眠り姫」のPVでしたー、というのは、もう、見え透いた手口に綺麗にやられた自分に大喜び。
で、短いその映像の中に、二次創作方面のファンサービス的要素が詰まっていて実に楽しかったです。
「光るおにぎり」とか「怪力やよい」とか。
「うおお!」と思ったのは、「能力者(アイドル)」というルビでしょうか。
あれ、あえて「アイドル」にする必然性はまったくないわけで。
アイマス架空戦記で氾濫している、「賞金稼ぎ(アイドル)」とかへのオマージュなんだろうなあ、と思うとうれしかったです。
(前述の通り、アイマス世界における「アイドル」自体、私たちの世界の「アイドル」とは重みがだいぶ違うわけですが)
……iDOL? 隕石除去ロボット? 知らんな。
二次創作ネタとしての「まっちょちょん」とか、公式にはアニマスの描写の中で否定されていて、安堵しつつも少し残念にも思っていたのですが。
それが、こういう形で生かされたのは、うれしい驚きでした。
公式設定とは食い違う二次創作のネタであっても、「劇中劇」という形で取り込んでいけるのが、「アイマス」というものの強みなのだろうと思います。
逆輸入と言えば、小鳥さんの腐女子設定も、ニコマスでは当然視されてるけど、*1公式に出てきたのは初めて……なのかな?
……まあ、あのBL妄想を地上波では流せないかもですね……。
しかしあの「劇場版」の中で一番笑ったのは、春香ややよいと同じ制服を着て同級生扱いになっているあずささん……おや誰か来たようだ。
ともあれ、私は本当に楽しみましたし、春香さんの言葉に私自身が励まされた気さえします。
続編なんてありえない、と思えたアニマスに、蛇足でない続編を作ってくれたスタッフに感謝したいと思います。
「でも、今度こそ、もう続編は無理だろうなあ……」
と思っているのですが、でも……、もしかしたら? という期待も抱いています。
いやほんと、何事もない日常風景を見られるだけでも大満足なんですけどね?
とにかく、まだ未見の方はぜひ劇場へ。